A Critical Thinking Reed

学びの記録に。考えたことの記録に。

理科学習における性差

(本稿では公開されている著作物からの引用があります。問題がございましたら削除いたしますのでコメントいただけますと幸いです。)

 

以前書いたブログのつづき。

(以前のブログはこちらから→ 女子の方が理科が苦手ってほんと?

 

目次

 

TIMSS(国際数学・理科教育調査)にみる性差

TIMSSとは、IEA(国際教育到達度評価学会)が4年ごとに実施している理系科目(算数・数学、理科)の国際的な学力調査であり、日本では小学4年生および中学2年生が対象となっている。詳しくは→TIMSS 2015

日本の結果

TIMSS2015 においては、小4と中2のいずれも有意な性差はみられない。

しかし過去には有意な性差がみられる年もあり、それらの年には決まって男子の方が成績が高いことが認められる。

又、小4よりも中2の方が有意差がみられる年が多くある。すなわち、学年段階が上がる方が性差が出やすい可能性が示唆されている。(このような傾向は国内学力調査などでも得られているが、今回は割愛する。)

諸外国の傾向

小4段階において有意な性差は22(/47)の国でみられる。女子が高い国が11か国、男子が高い国も11か国であった。

中2段階においては性差が19(/37)の国でみられ、女子が高い国が14か国、男子が高い国は5か国であった。

細かい分析は控えるが、男女差というのは遺伝的側面よりも環境的(後天的)側面の方が強いということが示唆される。尚、先進国では女子の理科に対する興味が低いことが問題視されているという分析があり(小倉, 2008)成績に限らずに幅広く分析していく必要があるだろう。

 

近年の研究にみる性差(情意的側面を中心に)

理科に関する性差を分析した研究は決して多いとは言えないが、ここでは日本のものを中心に研究をいくつか見ていきたいと思う。

まず、村松(2004)は、女子が中学校段階から急速に理科学習から離れ、理科に対する興味や有用管、学習意欲、授業への積極的参加等が男子に比べて顕著に低下することを指摘している。女子の理科離れを考えるときには、認知的側面と情意的側面の両面からのアプローチが重要であることがわかる。今回は情意的側面についてみていく。

原田・坂本・鈴木(2018)は、男女ともに中学1年生で理科の好嫌が減退した後に、男子は明確な減退傾向がみられないものの、女子は中学2年生でも顕著な減退がみられ、性差が生じ、中学3年生になると更に拡大していくことを指摘している。

栗山・平山(2016)は中学校理科における生物分野において、男子が女子よりも生物が好きであることを示している。更に、生物が好きな理由として見出された5因子のうち、「思考活動」「実験体験」「評価の満足」において性差がみられる。対して、生物が嫌いな理由として見出された5因子のうち、「知的な不満足」「実験の困難性」においても性差がみられている。この研究では物理分野についても分析を行っているが、性差は指摘されていない。

尚、以上で指摘してきたような理科の好嫌が学習成績や学習に対する積極性に影響を及ぼすことは、松浦(2007)などで指摘されている。

最後に。Kato & Yoshida(2003)は、日本の理科カリキュラムが女子の興味に合っていないことを指摘している。これ以外にも性差の要因を扱っている研究はあるが、まだまだ多いとは言えないだろう。

 

まとめ

今回はTIMSSの成績を基に、男女間における理科の成績の性差をみていき、更に日本の研究を中心に情意的側面から性差に関する国内研究を扱った。

今後は具体的な要因の分析について、算数・数学の様子も絡めながら学んでいきたい。

 

 

参考文献・引用文献

原田勇希・坂本一真鈴木誠(2018).いつ、なぜ中学生は理科を好きでなくなるのか?-期待―価値理論に基づいた基礎的研究ー 理科教育学研究,58(3),319-330.

Kato, A., & Yoshida, A. (2003). Gender Issues in Science Education in Japan. Journal of Science Education in Japan, 27(4), 258–267.

栗山和広・平山典子 (2016).中学生の理科に対する好き嫌いの構成要因 愛知教育大学研究報告.人文・社会科学編,65,1-7.

松浦拓也(2007).理科の到達度に影響する情意的要因に関する考察―小・中学生の比較を中心にして― 広島大学大学院教育学研究科紀要 第二部 文化教育開発関連領域,55,21–25.

村松泰子編(2004).理科離れしているのは誰か 全国中学生調査のジェンダー分析 日本評論社,22–96.

長沼祥太郎(2015).理科離れの動向に関する一考察―実態および原因に焦点を当てて― 科学教育研究,39(2),114–123.

小倉康(2008).PISA 2006における科学的リテラシーとしての態度の測定 国立教育政策研究所紀要, 137, 59-70.

女子の方が理科が苦手ってほんと?

本日は土曜日ながら講義日。理科教育についての基礎知識を学んだ。そんな講義の中で担当の先生から気になる発言があった。

「女子の方が理科が苦手な子が多い」

なんとなく感じていたことだが、改めて考えると疑問点や気になることが多い。

今日はこの話に関するメモを箇条書きにしてみる。

 

目次

 

1.本当にそんなデータがあるの?(質問結果を含む)

担当教員に聞いてみたところ以下のような話をされた。

・国内外問わず、学力調査にて性差についての分析は行われている。

・有意差は出る場合も出ない場合もあるが、平均点は一般的に男子>女子となることが多い。近年は差が縮んできているような印象。

・理科の中でも、物理/化学/生物/地学によって異なる結果が得られることがある。

・中2あたりで差が開きはじめるという研究がある。→特に「原子・分子」分野で苦しみ「電流」分野で完全に諦めるケースが多かった(らしい)。

・性差の要因分析が行われている研究もある。性差は成績だけでなく情意面にもみられることがある。

 

2.Stereotype Threat(ステレオタイプ脅威)

用語解説

ステレオタイプをその集団の成員が意識すると、ステレオタイプの内容と同じ方向へと変化していく現象をステレオタイプ脅威と呼ぶ。得意とする課題でも、苦手かもしれないという不安を与えただけで成績は低下する可能性がある。逆にその不安を取り除いてやれば、成績は回復する。

出典:ステレオタイプ脅威 | 社会心理学

・「女子の方が理科ができない」という発言自体がステレオタイプ脅威になるリスクがある。

ステレオタイプ脅威が、成績や行動の性差に関与している可能性。

 

◇余談◇

書きながら思ったこと。「Stereotype Threat」と「Labeling theory」って割と似ているかもしれない。どちらも認知バイアスに関係があるからかな...苦手という決めつけは個人的には好ましくない。

 

3.ゴーレム効果

用語解説

ピグマリオン効果のように「期待」と「成績」に因果関係があるのであれば、その逆もまた成立すると考えられた現象を、ゴーレム効果という。
・人に対し悪い印象を持ち接することにより、その印象が良い印象を打ち消して悪い影響のほうが勝ってしまい、悪い人と実際になってしまうことを指す。
ピグマリオン効果とは正反対の意味を持つ。
・例えば教師が生徒と接する際に、この生徒は成績の良くない生徒だと思いながら、この生徒に対して成績の上がる見込みがない期待度の低い状態で接すると、その期待通りに生徒の成績が下がることがある。

出典:ゴーレム効果とは - コトバンク

 ・教師が「女子の方が理科ができない」という認識を持つことがゴーレム効果につながるリスクが高そう。

 

4.男性と女性の脳の性差

・男女の成績差に先天的な要因がある可能性→男性脳・女性脳に関する仮説。男性は空間認識能力に優れ、女性は情報処理能力に優れている?

・近年の研究では脳の性差については否定的な見解の方が多い(らしい)。

 

5.隠れたカリキュラム

用語解説

学校教育の公式カリキュラムの教授過程における教師の行動を通じて暗黙に伝達される実践的な知識。学校に適した行動様式や男女の役割期待が習得されてゆくとされる。

出典:隠れたカリキュラム(かくれたカリキュラム)とは - コトバンク

・理系科目の先生にはあまり女性が多くない→女性は(理系でなく)文系にいくものだと潜在的に認識している可能性。

・理系女子がマイノリティ化して、理系に進む女子が普通でないという認識を持ってしまう可能性。

 

6.先生にさらに聞いてみた

・幼少期の遊びの性差が関係している可能性はある。男子の方がプラモデルなどでの遊び経験が多いことが関係しているかも?

・女子の方が男子よりも分からないことに対して諦めやすいのかもしれない。(⁇)

・とはいえ、男子と女子という簡単な枠組みでは分けられない。性別というよりも、性別によって規定される差が影響を与えているのではないか。→文化によっても異なる。

・大切なのは男女関係なく全員の学力を上げていくことである。女子が苦手になりやすいならばサポートが必要。

・(研究の波があり)現在はあまり研究されていないイメージ。

 

 

いま思いつく論点をざっとまとめてみた。

このメモを基にして今後さらに深く学んでいきたいと思う。

 

おわり。